労働安全衛生マネジメントシステムの

                 導入を間違えないように   2013.3.28  改訂出稿



1.はじめに

 日本の「労働安全衛生マネジメントシステム」には、それぞれの思惑と形態により、

おおよそ、3種類存在するという不都合があります。

 この事を先ず、認識して置かなければ、言葉に流され訳が分からなくなってしまいます。

 品質や環境及び食品安全のマネジメントシステムを”マネジメント”する責任者は、経営者により、

職場の”管理層”から選任され、”一定の責任と権限”が与えられます。

 しかし、”労働安全衛生”は、人命”と密接な関連があり、その国の「民法」、「刑法」、

「安全衛生に関する法律」により大きな影響を受けます。この事もあり、マネジメントする責任者は、

”経営層”から選任されることになります。

 また、法的な管理体制が職制(ライン)管理が基本であり、その職制には、”一定の責任と権限”の付加とともに

説明責任”が課せられます。これが、悩ましい問題を含んでいます。

 管理責任は”下から上”へ、業務指示は”上から下”へ流れます。

 こんな、会話を耳にしたことはありませんか 

    ・”貴方(上司)の言われた通りさせただけなのに、何で私の責任になるんですか。”

    ・”それではダメだ”と何度も説明したじゃないですか、分かりました、これからは、自分で決めます。”

    ・”どうして、私が納得する説明をしなかったんだ。現場には、君のほうが近いんだよ”

  法的には、事故(労働災害)が発生した時、査察時に初めて、各級管理者の責任が問われる仕組みに

なっていることです。極端な言い方をすれば、

 “安全管理を一切してなくても、十分な安全管理をしていても、

  無事に仕事が終われば、”みな同じ”と見えることです

 安全管理は、”母心とか思いやり”で済まされないのです。

 各級管理者(ライン管理者)には、それ相当の責任が科せられています。

 それは、“両罰規定”、“安全配慮義務(注意義務)違反”、“善良な管理者の注意義務違反”といわれるものです。


 これらの見え難い不具合を見つけ、「労働安全衛生法」の目的である

”安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成の促進”の実現のために、管理水準の「均一化」「見直し」

「継続的向上」を目指す労働安全衛生マネジメントシステム及び、その運用の土台であるリスクアセスメントが

求められる時代になりました。

 安全衛生マネジメントシステムがその管理下で働く全ての人たち及び、その他の害関係者(客先等)からの
要求事項や世間動向、監査結果等を踏まえた継続的な運用改善(スパイラルアップ)を図って行ける
”しくみ”を持っているからです。

2.3種類のマネジメントシステム

 次の呼称のものがあります。

   @ OHSMS  →「Occupational Health&Safety Management System」

   A OSHMS  →「Occupational Safety&HealthManagement System」

   B COHSMS →「Construction Occupational Safety&HealthManagementSystem」

 @は、英国のBS8800規格やOHSAS18001がその語源になっていて、ほぼ同じものと考えて
間違いないものです。

 一方、 Aは、中災防(中央労働災害防止協会)などで使っている呼称で、当初は中災防でも「OHSMS]と

呼んでいましたが、2001年12月に発行されたILOのガイドラインで「OSHMS」の表現が使われたことから、

変更したという経緯があります。

 ILO(国際労働機関)や厚生労働省の告示である指針(労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針)で

使われていることから派生したものです。なお、どちらも引用先が異なるだけで、全く同じシステムを指しています。

 後述しますが、国際規格であるOHSAS18001とは、矛盾の無い包含関係にあるため、将来の義務化に対応する

マネジメントシステムになると考えられています。

 Bは、建災防(建設業労働災害防止協会)が建設会社向けに策定した安全衛生管理の仕組みで、中災防同様、

ILO(国際労働機関)や厚生労働省の指針をベースにして、建設業固有の特性(※1)を加味した構成に
なっています。このため、ISO等のマネジメントシステムとは趣きが違っています。

 従って、ISOなどの認証機関(国際規格もしくは準拠)での認証取得ができない”しくみ”になっているために、

独自の認証機関を立ち上げています。平たく言えば、マネジメントシステムではなく、
コントロールシステムとしての機能が優先されているためだと言えます。
ちなみに、日本語表記では、同じ管理システムになります。

 最近、法改正により「元方事業者」も準じるということなりましたが、特定元方事業者(特定建設業)に限った
ものです。

※1
労働安全衛生法第30条における「特定元方事業者等の講ずべき処置」の中の“労働者及び
関係請負人の労働者・・・”及び、労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針の中の
第4条“・・・・ただし、建設業に属する事業の仕事を行う事業者については、当該仕事の
請負契約を締結している

事業場及び当該事業場において締結した請負契約に係る仕事を行う事業場を併せて
一の単位として実施することを基本とする”との記述があります。

この記述の意味からすると、その事業所の中で、

   ・ ”仕事内容を用い、OHSMSを運用しなさい”、

   ・ ”そうするように支援しなさい”、

   ・ ”この運用を通じ事業所(企業)とその労働者(従業員)の
                労働安全衛生の質と力量の向上に資するよう努めなさい”

と解釈するのがスジで、関係請負人の運用をコントロール(統制)する事と、
マネジメントシステムを運用している事と同一では無いと考えるのが
実際のところでしょう。

 特定元方事業者のマネジメントシステムと関係請負人のマネジメントシステムは
別もので、“・・・・を併せて1単位として実施することを基本とする”という記述を
“枠組み、土俵”として、解釈することが妥当なところです。

「OHSAS18001」、「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」、
「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」それぞれ、特定元方事業者を含め事業者と
労働者(従業員)の関係の中での構築が基本で、「ISO9001」「ISO14001」と同じ
運用をしなければ、認証取得が出来ないということになります。
 そういう意味で、ISO9001やISO14001のような認証取得が出来ないために
独自認証機関を持つCOHSMSは、特定元方事業者の従業員(労働者)を通じ、
関係請負人のマネジメントの実施結果でコントロール(統制)するシステム体系と
考えるのが妥当なところです。

 過渡期段階とは言え、経費の付け回しみたいなものになっているようで、現に、
特定元方事業者(ゼネコン)の従業員(社員)のマネジメントの向上事例、
その従業員(社員)の事業場での業務についての“リスクアセスメント”の実施事例
(事例公表)を見たことが無いことからも言えるかもしれません。
 良い表現ではありませんが、“力を入れて実施している”という“外づら”を良く見せるた
めに、担当部署が社内展開していると聞いたことがあります。

 結果、書類は立派、業者は次回(次の)現場で、同じものを作成するそうです。

 向学のために、特定元方事業者(ゼネコン)がどんな内容の目標(業者のではない)を
立てて、どんな実施計画を立てて、活動の結果、特定元方事業者(ゼネコン)の従業員の”
マネジメント力”が改善され、それを受けて、目標を改善・ステップUPしたかを見せて
頂きたいものです。

 労働基準法(定義)

  第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所
               (以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

  第10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の
            労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者を
       いう。


3.OHSAS18001とは


 「ISO9001」「ISO14001」に続く第3の規格としてOHSAS18001が開発されましたが、
現状ではISO規格としての「労働安全衛生マネジメントシステム」の国際規格は存在していません。

 しかし、「ISO9001」「ISO14001」の普及も相まって、企業にとって避けられないCSR(企業の社会的責任)
及びコンプライアンス(法の遵守)という社会的機運、「労働安全衛生」の問題をどうマネジメントして行くのか
という”課題に直面した時、”ISOの持つマネジメントシステムを道具として使って行こう”との高まりと
ともに、認証取得へと動きだし始めたところです。

 OHSAS18001を認証規格として、”QC,TQC,TQM”の総本山である「日本科学技術連盟」をはじめ、
第3者機関による評価サービスや認定事業等が開始されております。

 OHSAS18001は規格の名称で、OHSMSの検証、評価指針としての位置付けになります。

 実際のパフォーマンス評価のために重要なのは基準作りで、効果のある継続的運用のキーポイントとなります。


4.OHSMSとは

OHSMSとは「労働安全衛生マネジメントシステム」と訳されています。

 ISO化されていませんが、「労働安全衛生のISO」ということになります。

 食品安全(ISO22000)に先を越されましたが、近い将来OHSAS18001(※2)をもとに

ISO化されることでしょう。このOHSMSは、IOHSAS18001をベースに「労働安全衛生法」の遵守と

厚生労働省の指針に準拠した形で構成して行かなければなりません。

 この構成を進める中でいかに、パフォーマンスの評価のための基準をそのレベルに沿った形で作り込めるかが

”カギ”となります。

※2
 OHSAS18001=日本(現在の厚生労働省)も含めた23カ国自主連合が
1999年に「認証のための国際規格して制定され、2007年に規格改訂が行われ、
OHSAS18001:2007版になっています。


5.OHSMSの導入の意味

OHSMS導入の意味は、

    ・ 労働安全衛生法」の第一条(目的)をより確実にする

    ・ 従来の枠組み(建災防、中災防)をより効果的に運用する

    ・ その枠組みの有効性の確認・検証及び改善

 の新たな”しくみ”として、期待出来るからです。

 また、このOHSMSが、労働安全衛生の運用水準の「均一化」と「継続的向上」に向け、枠組み(システム)の
見直しやその管理下で働く全ての人たち及び、その他の害関係者(客先等)からの要求事項や世間動向、

監査結果等を踏まえた継続的な運用改善(スパイラルアップ)を図って行く”しくみ”を持っているからです。

労働安全衛生法基準法(目的)
 第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、
     労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び
     自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な
     対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保する
     ともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。


6.リスクアセスメントの意義

OHSMSのリスクアセスメントは、心臓部にあたります。基本的には、

    ・環境マネジメントシステム(ISO14001)における”環境側面の特定”

    ・品質マネジメントシステム(ISO9001)における”品質側面の特定”

 と同様、”安全衛生側面の特定”にあたるものです。

 リスクアセスメントは、過去に発生した災害事例と過去数年分の災害パターンを分析し、ランク付け又は、
数値化することによって、評価(アセスメント)可能な結果を活用し、全体(共通)の安全衛生の
目的・目標の達成計画のためとなる材料を抽出するためだと言えます。

 そのため、新規作業や作業方法の変更に対してもその材料を活用し、その材料(フィルター)を通し、
「リスクを有する危険有害要因」の事前評価及び再評価を行い、その結果を踏まえ、
職場の安全衛生目標と計画を作成することが大事になって来ます。

 作成した安全衛生計画に基づき、潜在的な危険性の除去・低減を図って行く事に意味があると言えます。

7.監査(内部監査、外部審査)の意味


 監査は、毎年少なくとも1回は実施するようにします。

 組織に於ける運用情報の収集・分析、監視・測定及び評価・改善の活動記録を評価対象とする事により、
その評価結果をフィルタリングする事により、自ら決めた「安全衛生目的・目標」の達成度合いや、
PDCAサイクルの機能の有効性を計るためのものです。

 また、外部機関による認証取得・更新・維持に関連し、年1回の割合で、マネジメントシステムの
妥当性や有効性、努力性などを評価してもらいます。

 これらの監査を通じ、職場の「安全衛生の管理レベル」の改善とステップUPが望めます。

このことに、深い意義があるのです。