安全配慮義務(注意義務)違反について


安全配慮義務(注意義務)違反について


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使用者(事業主)の「安全配慮義務」


2013.5.1 改訂出稿

 安全配慮義務とは、民法、労働基準法、労働安全衛生法などに基づき使用者(※1)が労働者※2)に対して

負う義務(労働契約に付随する義務)の一つで、雇い入れている従業員に対し、

「使用者は労働者の生命及び健康などを危険から保護するように配慮しなければならない」というものです。

 これまで判例によって定義されていた「安全配慮義務」は、平成20年3月1日に施行された労働契約法により、

法の条文として、次のように明記されました。

 * 第5条(労働者の安全への義務)

       使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ、労働することが

       出来るよう、必要な配慮をするものとする。


 これにより、判例によって定義されていた「安全配慮義務」が、法の条文に格上げされたことになります。

この意味は、安全な状態(状況)で業務に従事させなければならないという「義務化」であり、

この「安全配慮義務」を怠ると民事・行政上の責任が発生するということです。

 さらに、死亡災害等が発生した場合には、億単位の賠償金の支払いを命ぜられた事例もあることから、

多大な損害を被ることも考える必要があります。

安全配慮義務」は、リスク管理という観点からも企業が真剣に取り組む必要のある問題と言えます。

「安全」という言葉には、設備的な側面はもちろんのこと、メンタルヘルスなどの精神的な側面や

衛生上の側面についても配慮することが含まれています。

従って、管理監督者※3)には、部下の労働時間を把握し、心身の健康状態を積極的に把握して、

必要に応じた勤務軽減措置を取らせる義務があり、労働安全衛生法は、

安全配慮義務」を具体化したもので、働く人への配慮規定として、次のものが挙げています。

              ・ 働く人の健康を損なう危険の回避の配慮

              ・ 健康を保持推進するための配慮

              ・ 業務を適正、快適なものにするための配慮

              ・ 危険状態にある人への安全確保のための配慮

 使用者が「安全配慮義務」を尽くすとは、労働安全衛生法の完全履行することであり、

さらに今後は、

従業員(労働者)の精神衛生面についての配慮が重要になって来ます。

 他方、「安全配慮義務」を尽くす努力は、その分、従業員(労働者)の事業遂行の効率化にも繋がり、

積極的な経営の実現にも資するものになります。

  ※1 使用者  =事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、

               事業主のために行為をする全ての者をいう

  ※2 労働者  =職業の種類を問わず事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう

     ※3 管理監督者=一般的には部長、課長、工場長等がその地位にあたります。

             実際は、次の条件を満たしているかを総合的に判断するようです。

                   ・ 一般の社員を管理監督する重要な職務と権限が与えられている

                   ・ 自分の裁量で働ける環境が整えられている

                   ・ 役職手当など賃金面であきらかに優遇されている

 これまで判例によって、定義されている安全配慮義務は、次の通りです。

 「雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払を、その基本内容とする

双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、

使用者の供給する設備、器具類等を用いて労務の提供を行うものであるから

使用者は、報酬支払義務にとどまらず労働者が労務提供のため設置する場所、

設備もしくは器具等を使用し又は、使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、

労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を

負っているものと解するのが相当である。」


 また、これまでの判例では、

次のようなものが使用者の安全配慮義務の具体例として指摘されています。


          @ 災害防止のために必要な安全設備の設置ないし安全装置の装着義務

          A 疾病防止のための衛生設備の設置義務

          B 安全マスク、命綱等の保護具を使用させる義務

          C 作業の方法、順序の決定、作業の指揮監視体制等を整える義務

          D 機械等の作業工具の危険性、取扱い方法の周知、徹底等の安全教育義務



「安全配慮義務違反」


2013.5.1 改訂出稿

安全配慮義務」を怠ったために労働者が損害を被ったとき、使用者は損害を賠償する義務を負うことになります。


使用者が負う責任の一つは、民事上の損害賠償責任です。

特に注意が必要なことは、従業員(労働者)の怪我による治療費や休業補償が

労災保険で補填されているので、”使用者がそれ以上の責任を負担することはない”という誤解及び、

”労災と民事賠償とは択一的なものではない”という事実です。


労災認定は、非常に厳しく又、認定にかなりの時間がかかります。そのこともあり、

労災認定とは関係なく或いは、並行して「安全配慮義務違反」による損害賠償請求がなされてくることも

珍しくはありません。


 安全配慮義務に関するこれまでの例をみてみると、賠償額が、かなりの高額になることは珍しいことではなく、

賠償金の支払いが、相当の負担になることは、十分に認識しておく必要があります。

この他にも、法的責任としての安全衛生法上の“罰則規定の適用”があり、事案によっては、

責任者(管理監督者)が業務上過失傷害などの“刑事責任”が問われることもあります。


 法的な責任以外にも、事故による事業停止の危険(リスク)や、

事故を発生させたことによる社会的評価及び

訴訟などによる社会的評価の失墜は、看過できない問題となります。


                ◆ 民事上の損害賠償責任

                ◆ 業務上過失傷害などの刑事責任

                ◆ 貴重な人材の損失(労働日数の損失

                ◆ 事故等による営業・操業停止に伴う経済的損失

                ◆ 社会的信頼の失墜

                ◆ 訴訟等の準備に伴う経済的・時間的損失


使用者が安全配慮義務を果たしていたとしても、労働災害が起こることも考えられ、

労働基準法と労働者災害補償保険法(労災法)で”要件”や”保証内容”等を定めています。


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労働契約法に基づく安全配慮義務





2013.5.1 改訂出稿

 労働契約法が2008年3月1日から施行され、事業主に対し「安全配慮義務」が課せられました。

会社として具体的に何をすれば、義務を果たしたことになるのでしょうか。

 労働契約法は、「労働契約に関する基本事項を定めることにより、

労働関係の安定に資する」ことを目的としていますが、

基本的には過去に確立した判例等を法律化したものであり、「無から有を生む」という

新しい義務を創設するものではありません。


 「安全配慮義務」に関しても、参考となる過去の最高裁判例等が存在し、それに依拠する形で、

以降の法律トラブルも処理されていくことでしょう。しかし、

中小・零細の事業主は、判例に対し、十分な理解がなされているとは言えない。

このことからの、周知・啓発の意味も込め、明文化されたということなのでしょう。

安全の問題に対し、これまで十分な配慮を尽くして来なかった会社では、

新法をキチンと理解し、必要な対策を講ずる必要があります。


      労働契約法第5条では、

「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ、労働することができるよう、

必要な配慮をする」ことを求めています。


有名な判例に自衛隊車両整備工場事件(最判昭50・2・25)と川義事件(最判昭59・4・15)がありますが、

このうち民間企業を扱った後者では、安全配慮義務を「労働者が労務提供のため設置する場所、

設備もしくは器具等を使用し、又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において、

労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」と定義しています。

 その後の判例をみると、災害発生を予見できたか否か(=予見可能性)、

社会通念上相当とされる防止手段を尽くしていたか(=危険回避努力)の両面を検討し、

事業主の責任を判断しています。 具体的にどのような措置を講じるべきか、

法律では列挙されていませんが、概ね次のような内容を含むと解すのが通説です


               ・ 設備の安全化、作業環境改善

               ・ 安全な設備等の選択・安全装置の設置

               ・ 保護具の着用義務付け

               ・ 監視人等の配置・安全衛生教育の徹底

               ・ 健康管理・危険業務への有資格者等の選任


 この他、”いじめ”や自殺防止等も現代的課題として含まれるでしょうし、違反した場合、

労働契約法には罰則がありませんが、民法第715条(使用者責任)、第415条(債務不履行)等を根拠に、

事業主に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在します。

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